龍馬伝第3話「偽手形の旅」あらすじと史実|龍馬と弥太郎の江戸への道

江戸へ向かう道中の関所を前にする龍馬たちの和紙調オリジナルイラスト 龍馬伝 各話のあらすじ
第3話「偽手形の旅」の関所の場面に着想を得た創作イラスト

2010年1月17日に放送されたNHK大河ドラマ『龍馬伝』第3話「偽手形の旅」。江戸で剣術を学ぶことになった坂本龍馬が土佐を出発すると、岩崎弥太郎が突然現れ、旅への同行を願い出ます。ところが弥太郎が持っていたのは偽造された通行手形でした。今回は龍馬と弥太郎が関所で直面した危機を軸に、加尾や武市の心情、父・八平が実際に残した教え、江戸時代の旅の仕組みを丁寧に整理します。史実とドラマの演出を分けながら、「自由に進もうとすること」と「大切な人を巻き込まないこと」の意味も考えてみましょう。

第3話「偽手形の旅」の放送日と登場人物

第3話の放送日は2010年1月17日、放送時間はNHKオンデマンドの配信情報で43分と案内されています。龍馬を演じるのは福山雅治さん、岩崎弥太郎は香川照之さん。龍馬の旅の同行者である溝渕広之丞をピエール瀧さん、武市半平太を大森南朋さん、平井加尾を広末涼子さんが演じています。父・坂本八平役は児玉清さんです。
前回の第2話「大器晩成?」で、龍馬は堤防工事の差配という難題に向き合いました。第3話ではようやく故郷を出て、土佐の外へ歩き始めます。物語の舞台が「日常」から「旅」へ移ることで、龍馬が越えようとする壁も変わっていきます。これは史料を紹介する回であると同時に、龍馬と弥太郎の性格の違いが鮮明になる回です。

あらすじ前半 江戸行きを許された龍馬が土佐を出発

嘉永6年(1853年)の春、龍馬は剣術修業のために江戸へ向かうことになります。父の八平は送り出す息子に心得を渡し、龍馬は家族や故郷への思いを胸に旅立ちます。同行する溝渕広之丞は江戸への旅の経験があり、道中の案内役として頼りになる人物です。
ここで忘れたくないのは、江戸行きが現在の旅行とはまったく違う決断だったこと。土佐から遠く離れた江戸へ向かうには時間も費用もかかり、すぐに故郷へ戻れるとは限りません。父の言葉を受け止める場面を見ていると、龍馬の期待だけでなく、送り出す家族の不安も感じられます。ドラマはこの別れを通じて、龍馬の旅立ちを一人だけの冒険ではないものとして描きます。

突然現れた弥太郎 同行を頼む本当の理由

土佐を出てまもなく、龍馬と広之丞の前に岩崎弥太郎が現れます。弥太郎も江戸へ行くと言い張り、金が十分にないため一緒に連れて行ってほしいと願い出ます。溝渕は警戒しますが、龍馬は弥太郎を受け入れます。
同じ故郷の幼なじみでも、二人が置かれた条件は違います。龍馬には修業の許可と家族の送り出しがあり、弥太郎は学びたいという切実な気持ちの一方で、道中に必要なお金も足りません。弥太郎の振る舞いは身勝手にも見えますが、努力だけでは追いつけない焦りも感じさせます。「同じ夢を見る人が、同じ条件で出発できるとは限らない」。この差が、二人の旅を不安定にしていきます。

最初の関所 通行手形に隠された秘密

江戸時代の関所で通行手形を確認される旅人と土佐から江戸へ向かう道を描いた創作イラスト
龍馬伝第3話「偽手形の旅」に着想を得た関所と旅路の創作イラスト

旅の途中、三人は番所で通行の確認を受けます。弥太郎が差し出した手形に書かれた名を役人が読み上げると、本人の名と一致しません。それでも最初の確認は切り抜けますが、弥太郎の手形が正規のものではないと知った龍馬は、同行の危険さに気づきます。発覚すれば弥太郎だけでなく、一緒にいる自分たちまで疑われるおそれがあります。
ドラマにおける偽手形は、単なる道中の小さな悪ふざけではありません。ひとつの嘘が同行者全員の安全と将来に影響しうることを示す仕掛けです。龍馬が弥太郎を助けたい気持ちと、距離を置こうとする判断の間で揺れる様子には、親切と責任が必ずしも同じ方向を向かない現実が描かれています。

四国最後の番所で偽造が発覚する

一行はさらに旅を続けますが、四国を離れる前の番所で弥太郎の手形が偽物だと見破られます。NHKの公式あらすじも、ここを第3話の大きな転機として紹介しています。江戸へ行くことばかりを考えていた弥太郎が、旅を続けられるかどうかの瀬戸際に追い込まれるのです。
弥太郎はとっさの言動で龍馬たちとの関係を切り離そうとします。厳しい口調や反発の陰に、龍馬たちを巻き込まないための気持ちがあるのではないか、と読み取ることもできます。ただし、それは作品の人物描写からの解釈です。ドラマで描かれる旅の具体的な経路や役人との会話を、現実の龍馬と弥太郎がそのとおり経験した史実として記すことはできません。

土佐に残る加尾と武市 旅立てない人の思い

物語は旅の道中だけで進むわけではありません。故郷に残った平井加尾は龍馬への思いを断ち切れず、兄・収二郎が進める縁談を断ろうとします。江戸へ向かう龍馬は未来の可能性に心を躍らせますが、加尾はその不在と向き合いながら、自分の気持ちを選ぼうとしています。
一方、武市半平太は土佐で剣術の稽古に打ち込みます。旅立てる者と旅立てない者、夢へ進む者と家族・故郷に残る者。それぞれに異なる責任があります。龍馬の物語だけを追っていると脇役に見える人物も、こうして視点を変えると自分の人生を選ぼうとしています。加尾の具体的な縁談のやり取りも、劇中の描写と史実の確証とを混同しないように読みたい部分です。

史実の龍馬は1853年に江戸へ剣術修業に出た

では、どこまでが資料で確認できるのでしょうか。龍馬が嘉永6年(1853年)に江戸へ剣術修業に出たことには、確かな歴史資料があります。国立文化財機構の「e国宝」に紹介される「小栗流和兵法事目録」は、龍馬が土佐で日根野弁治のもと小栗流の武術を学び、目録を受けたことを示す資料です。龍馬はその後、江戸の桶町千葉道場で北辰一刀流を学んでいます。
つまり、江戸で剣術を学んだという旅の大枠は史実に基づいています。反対に、弥太郎が偽手形を持ち、龍馬と共に同じ番所で検査を受けたという出来事には、ここで紹介した史料による裏づけがありません。実際に残る記録と、ドラマが人物関係を描くために組み立てた出来事を区別すると、作品の面白さと歴史を学ぶ楽しさの両方が深まります。

父・八平が残した「修業中心得大意」は実在する

第3話をより深く味わう手がかりが、父・八平が龍馬に渡した「修業中心得大意」です。この書面は実在し、文化庁の文化遺産データベースで重要文化財として解説されています。嘉永6年3月吉日付の文書で、江戸へ向かう龍馬に対する父からの訓戒でした。説明されている内容の柱は、修業を第一とすること、無駄遣いを避けること、色恋に迷わないことの三つです。
華やかな英雄伝説より、こうした一通の書面からは家族の実感が伝わってきます。遠くへ行く息子が無事に学びを終えられるように願いながら、父は生活上の具体的な注意まで記したのです。龍馬がこの書面を大切に保存し、現在まで伝わったことも貴重です。ドラマの旅立ちの場面に歴史の手触りを与える、確かな資料と言えるでしょう。

通行手形とは何か 関所を通るための仕組み

江戸時代の旅では、往来手形や関所手形が身元や通行の確認に使われました。手形は現代の旅券にたとえられることがありますが、発行方法も記載内容も現代のパスポートとは同じではありません。庶民の旅では名主や寺院が発行する往来手形が用いられ、武士の旅行では所属する藩から許可を受ける場合がありました。

関所ごとの制度にも違いがあります。
東京都あきる野市が公開する古文書解説には、往来手形が旅行の許可や身分証明に使われ、旅先で病気になった場合の対応などまで記される例が紹介されています。これは、旅が目的地へ向かう移動だけではなく、身元を保証し合う仕組みに支えられていたことを示します。

第3話でたった一枚の手形が命運を左右するのは、当時の社会背景を踏まえた描写なのです。ただし、弥太郎が実際に偽造した事実をこの制度の説明から推測してはいけません。

岩崎弥太郎の偽手形は史実なのか

第3話の「偽手形」という事件は印象が強いため、そのまま歴史上の有名な逸話として記憶してしまいそうです。しかし江戸時代に通行手形の制度があったことと、弥太郎が龍馬に同行するため偽造手形を使ったことは別々の主張です。前者は制度を説明する資料から確認できますが、後者は今回確認した一次資料だけでは裏づけられません。
この違いは、ドラマを楽しむうえで決して邪魔ではありません。偽手形をめぐる騒動は、貧しさの中でも学びたい弥太郎の執念と、友人を放っておけない龍馬の人柄を一度に見せる脚本上の工夫として理解できます。史実が不確かな場面については「ドラマではこう描かれた」と伝える。それが歴史上の人物への敬意にもつながるのではないでしょうか。

龍馬の生き方から学ぶ 夢と責任の両方を見る

龍馬の姿から受け取りたいのは、誰かの願いを受け入れる温かさだけではありません。弥太郎が危険な手形を持っていると分かったとき、龍馬は自分や案内役の溝渕も巻き込まれる可能性を考えなければなりません。誰かを助けたい気持ちと、無条件にすべてを引き受けることは違うのです。
これは今の生活にも通じます。

友人が困っていても、不正な行為を一緒に隠すことが本当の支援になるとは限りません。まず事情を聞き、どこまで手伝えるかを考え、必要なら正しい方法を探す。断るときにも相手の尊厳を守る。そのような姿勢は、親切を長く続けるための現実的な知恵です。逆に弥太郎の側から見れば、助けを求めることに加え、自分の行動が相手に及ぼす影響を考えることも大切でしょう。どちらか一人を善人・悪人と決めるより、両方の視点から考えられるところに、この回の価値があります。

第4話「江戸の鬼小町」につながる旅の意味

第3話が描くのは、江戸で大きな学びを得る前の道中です。旅に出たからといって、すぐに世の中が変わるわけではありません。困っている友人との関係や故郷に残る人の気持ちに向き合いながら、龍馬はこれまで知っていた世界の外へ向かいます。次の第4話「江戸の鬼小町」では、龍馬が千葉道場へ入り、女剣士・佐那との出会いを経験します。
順番に読むなら、まず第1話「上士と下士」で土佐の身分制度を、続いて第2話「大器晩成?」で龍馬の仕事への向き合い方を確認すると、この旅の意味がいっそう分かります。龍馬伝の各話一覧では、この先の物語も続けてたどれます。

参考にした情報

夕暮れの船上で、巻物を前に新しい国の構想を考える幕末の志士を描いた創作イメージ

A VISION FOR TOMORROW

海の向こうに、
新しい日本を描いた

誰もが当たり前だと思っていた時代の仕組みを、
問い直す勇気が、未来を動かす。

※ 船中八策に着想を得た創作イメージです
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