NHK大河ドラマ『龍馬伝』第35話「薩長同盟ぜよ」は2010年8月29日放送。龍馬は三吉慎蔵と京へ入り、木戸孝允と西郷吉之助の薩長同盟交渉へ向かいます。新選組らの監視の中で交わされる盟約の意味を、宮内庁所蔵の木戸家文書と龍馬の裏書をもとに史実とドラマに分けて解説します。
第35話「薩長同盟ぜよ」のあらすじと放送日
NHK大河ドラマ『龍馬伝』第35話「薩長同盟ぜよ」は2010年8月29日に放送されました。長府藩士の三吉慎蔵と京都へ入った龍馬は、幕府側の警戒が厳しく薩摩藩邸へ近づけません。一方、桂小五郎から木戸と名を改めた長州の代表は、西郷吉之助ら薩摩側との交渉に臨みますが、龍馬の立ち会いを求めます。幕府の監視の中で、長く対立した二つの藩が同盟へ踏み出す重要な回です。
龍馬役は福山雅治さん、木戸役は谷原章介さん、西郷役は高橋克実さん、お龍役は真木よう子さん。岩崎弥太郎を演じる香川照之さんの登場場面では、土佐の政治が別の緊張を生みます。劇中の会談がそのまま史実の会議録ではないものの、史料に残る薩長同盟の六か条と龍馬の裏書を知っておくと、物語の重みをより深く理解できます。
なぜ薩摩と長州は同盟する必要があったのか
薩摩と長州は1864年の禁門の変で敵対し、長州には多くの犠牲者が出ていました。そのため両藩が協力するという提案は、互いの不信を越える難しい決断でした。一方で幕府の長州征討が進み、長州には武器と軍事的な援助が必要でした。薩摩にも幕府が権限を強め続ければ自藩が政治的に動きにくくなるという問題がありました。双方の利害が変わったことが、同盟を現実の選択肢にしました。
これまでのドラマでは龍馬が船と武器の調達を通じて薩長の距離を縮めようとしてきました。商取引によって協力できても、正式な政治上の約束を結ぶには各藩の責任者の判断が必要です。第35話では、龍馬の情熱だけでは解決できない段階に進みます。歴史でも西郷や小松帯刀、木戸孝允など当事者の役割と、龍馬や中岡慎太郎による仲介を合わせて理解することが大切です。
木戸孝允が龍馬の立ち会いを求めた理由
桂小五郎は木戸孝允としても知られる長州の政治家です。ドラマでは木戸が薩摩藩邸で西郷らに向き合い、龍馬の立ち会いがなければ本格的な会談を始めないと主張します。過去の戦闘によって信頼が失われているため、双方を知る人物が約束を見届けることに意味があるのです。龍馬は一方の藩にだけ従う立場ではなく、両者の考えを聞いて調整してきました。
宮内庁が紹介する「龍馬裏書」は、木戸が同盟の内容を六か条にまとめ、後日龍馬へ確認を求めた実在の文書です。そこには龍馬が内容に誤りがないと朱書で返答しています。ドラマの木戸の台詞をそのまま史実とは言えませんが、盟約の確認を龍馬へ求めたことは資料から分かります。約束の証人を求めた場面と、実際に残る文書を区別して見ることができます。
新選組と伏見奉行に追われる龍馬
龍馬は長府藩士の三吉慎蔵と京都へ来ますが、新選組や伏見奉行所の動きを警戒し、簡単には薩摩藩邸へ入れません。薩摩と長州が接近することは幕府にとって大きな政治的な変化であり、秘密の交渉が露見すれば関係者へ危険が及ぶ可能性がありました。ドラマは見張りや追跡を通して、会談にたどり着くまでの緊迫感を表現しています。
龍馬がどの道を通り、何時に誰へ追われたのかという細部は、NHKの脚本上の場面と史料を分ける必要があります。歴史上、薩長同盟の成立直後には伏見の寺田屋で龍馬が襲撃を受けていますが、これは次の第36話「寺田屋騒動」の中心です。同盟の交渉中の危機と、その後の襲撃を同じ事件にまとめないことで時系列がはっきりします。
寺田屋で龍馬を心配するお龍と三吉慎蔵
龍馬は一度寺田屋へ身を隠し、お龍は危険な政治活動へ向かう彼の身を案じます。ドラマのお龍は、龍馬が抱く大きな志をただ称賛するだけでなく、身近な人が命の危険にさらされる不安を表す人物として描かれています。政治の転換点として語られる出来事にも、帰りを待つ人の暮らしがあります。ここでの会話は脚本により構成された場面で、史料に残る逐語的な証言ではありません。
三吉慎蔵は長府藩の実在した人物で、後に寺田屋で襲撃された龍馬を助ける役割を果たします。坂本龍馬記念館は寺田屋事件で、三吉とお龍が龍馬の生存に大きく関わったことを説明しています。第35話で三吉が龍馬に同行する描写は、次回へつながる人物関係を理解するうえでも重要です。ただし二人が行ったすべての行動の順番を、作品どおりと断定することはできません。
弥太郎が新選組に捕らわれるドラマの筋
同じころ岩崎弥太郎は後藤象二郎の命令で薩摩藩の動きを探るため京都へ出向きます。幕府側の新選組に捕らえられ、取り調べを受けるという展開が描かれます。龍馬が大きな政治的な協力を求めているとき、昔なじみの弥太郎は藩の任務によって危険にさらされています。二人が違う立場から幕末の変化に向き合う対比は、このドラマらしい特徴です。
ただし弥太郎がこの時期に同じ場所で新選組に捕まり、ドラマのような拷問を受けたという出来事は、ここで確認した同盟関係の史料からは裏づけられません。岩崎弥太郎は実在の人物ですが、この場面はドラマの筋として説明するのが適切です。実在の人物が登場する作品だからといって、すべてのエピソードが歴史の記録に基づくわけではありません。
薩長同盟の六か条は何を約束したのか
薩長同盟は単に「仲良くする」という約束ではありません。木戸がまとめた六か条には、幕府が長州へ軍を向けた場合の薩摩の対応、長州の立場の回復へ向けた朝廷への働きかけ、戦況が不利でも援助を続けることなどが記されました。政治的な信頼がまだ十分ではない中で、具体的な条件を文章にしたところに大きな意味があります。戦争の可能性を念頭に置いた厳しい時代の合意でした。
宮内庁所蔵の木戸家文書には、木戸が六項目を記して龍馬に確認を求めた書簡が残っています。龍馬はその裏に、内容に相違がないという趣旨を朱で書き込みました。現在も資料として確認できることが、薩長同盟の実像を考える重要な根拠です。ドラマの会話は感情の動きを伝えますが、実際に合意した条件を知るには、このような文書に目を向ける必要があります。
同盟成立日は1866年1月21日、裏書は2月5日
高知県立坂本龍馬記念館によれば、薩長同盟が成立したのは慶応2年(1866年)旧暦1月21日です。その後、木戸が六か条をまとめて龍馬へ送り、龍馬は同年旧暦2月5日に裏面へ朱書しました。つまり会談と裏書が同じ日に行われたわけではありません。現代の暦とは日付が違うため、旧暦と新暦の混同にも注意しましょう。
龍馬記念館は、龍馬がこの時点で寺田屋事件による手の傷を負っていたため、裏書が二週間ほど後になったことを説明しています。龍馬の朱書は、後年に生まれた「龍馬が全部を決めた」という単純な物語とは違い、当事者が交わした約束を証人として確認する性格を持ちます。記録を残し、互いが約束の内容を確かめることの大切さが伝わります。
坂本龍馬と中岡慎太郎の仲介の意義
龍馬は薩摩と長州の間に立って交渉を進め、中岡慎太郎も両藩が協力するよう働きかけました。西郷、小松、木戸ら各藩の当事者が実際の責任を担い、仲介者たちはそれぞれの意向を伝え合う役割を持ちました。どちらか一人が万能な英雄だったとすると、長年の敵対を越えるまでに重ねられた交渉や実務の積み重ねが見えなくなります。
薩長同盟は幕府に対抗する政治勢力の成立へとつながりましたが、同盟を結んだ時点で明治維新の未来がすべて決まったわけではありません。以後も戦争や政治交渉が続き、人々の関係は変化しました。ドラマの第35話を時代の転換点として楽しむと同時に、その後の長州征討や大政奉還まで続く歴史の一場面として位置づけたいところです。
第36話「寺田屋騒動」へ続く
薩長同盟が結ばれた直後、龍馬は京都・伏見の寺田屋で伏見奉行所の役人に襲われます。お龍の知らせと三吉慎蔵の助力によって命を取り留めますが、手に深い傷を負いました。第36話「寺田屋騒動」はその危機を描く回です。同盟の成功から間を置かずに危険が迫るため、龍馬が幕府側から警戒される存在になっていたことが分かります。
前回の第34話「侍、長次郎」では亀山社中の内部で起きた悲劇を描きました。政治の進展と仲間の喪失は同時代に起きています。第36話「寺田屋騒動」や全話一覧とあわせて、作品を放送順にたどると関係が理解しやすくなります。






